ネコと哲学

日ごろの気づきを中心に書いていきます。精神疾患の構造も触れていきますが自論もかなりあります。なんらかの気づきにつながれば幸いです。

ある種の幻覚妄想状態について。

 私は統合失調症の患者さんのいる単科精神科病院に勤めておりますが、幻覚というより著しい妄想状態により退院が困難なケースが少なくないです。

 例えばですが(脚色して書きます)、長期の入院しているある女性患者さんは、「自分は~という男性と結婚式を~のホテルで挙げることになっておりそのために〇月✖日には退院しないといけない」と言い続け、実際そのような相手はおらず、連絡も取っているわけでもないのですが、幻覚の混じった妄想のため本人はそれを本当のことだと信じて退院を要求するということを何度か経験しました。

 本人は同じ訴えを言い続けてこちらは、そういう相手もいないし連絡もとれていないし、退院は今は難しいでしょうとやんわりと返すのですが、「相手がもうそこまで私を迎えに来ている。病院の下で待っている」といって納得しなかった。

 

 自分が退院できないから逆にこういう自分を迎えに来る方が来て退院できるという妄想が出ているとも考えられ、今の環境や状況が妄想を生み出しているとも言えます。

 こういう状況を病気の発症当初から続けてきたのではないかと思われ、もし本人の望みが旨くいかなかったり、絶たれたりするような状況が、妄想を生み出すきっかけになっているとすれば、なるべく本人の望みを叶えてあげればいいのではないかとよく考えます。

 しかし、本人の望む要望が、要望そのものを受け入れるなど、必ず相手が絡む要望であることが本当に多く、やはり親や家族に対する要望と同様のレベルの要望であるようです。このため常にその要望を受け入れたり叶えてあげたり、受け入れるというのがやはり困難であり、本人の望みはその通りにはならず、要望の不可能性ゆえに、それがまた妄想を生み出す元になるという悪循環になり、病気の状態が引き続いていきます。本人の要望を絶えず叶えてあげればいいとも思われますが、本人の身内や親の代わりをするようなものであり、これも現実的に親代わりはできません(本当に親代わりをするとなると自宅に患者さんを引き受けなくてはならないかもしれません)。当然薬も使っていますが、効果は十分ではないことがほとんどで、本人の訴えには否定もあからさまにはできず、難しいなあと頭を抱えながら一緒に問題を共有するしかなさそうです。

 こう考えると病気の発症時期は、要望を表現できるようになり相手との距離がはっきりしてくる思春期以降なのかと思われます。妄想型(妄想>幻覚)の統合失調症に限られると思いますが。本人が自分の欲求や要望に対して周りとの折り合いをつけれなくなり(欲求や要望が具体的な形として表すことができない。具体的に家庭や学校や社会の中で定着させていくことができずに)妄想という表現をとったということなのでしょう。違うタイプの妄想もあり、病気の原因については一括りにはできないところありますので、一面を述べさせていただきました。